ここでは、具体的な学問分野について、実学と虚学に分けてみたいと思います。
日本十進分類法というものがあります。図書館で本を分類するときに使われるものです。この分類の中で実学と虚学を強引に分類してみます。さらに、我が国の最高学府である東京大学の学部・学科についても分類してみます。
目次
日本十進分類法の項目を実学・虚学に分けてみます
基準は、衣・食・住など生活に役立つものを実学とし、なくても生活できるものを虚学としました。
今は工業や情報産業がなくてはならない社会ですから物質的なものを扱うものはすべて実学としています。また、政治や経済なども日常生活に直接のつながりを感じにくい分野でも社会について研究する分野も実学としています。
そして、実学に該当しない分野を虚学としています。
また、判断しにくいものは中間的なものとするか、保留としています。
実学は赤、虚学は青、その中間的なものは紫。判断を保留するものは黒で分類してみます。
- 00 総記
- 01 図書館、図書館情報学
- 02 図書、書誌学
- 03 百科事典、用語索引
- 04 一般論文集、一般講演集、雑著
- 05 逐次刊行物、一般年鑑
- 06 団体、博物館
- 07 ジャーナリズム、新聞
- 08 叢書、全集、選集
- 09 貴重書、郷土資料、その他の特別コレクション
- 10 哲学
- 11 哲学各論
- 12 東洋思想
- 13 西洋哲学
- 14 心理学
- 15 倫理学、道徳
- 16 宗教
- 17 神道
- 18 仏教
- 19 キリスト教、ユダヤ教
- 20 歴史、世界史、文化史
- 21 日本史
- 22 アジア史、東洋史
- 23 ヨーロッパ史、西洋史
- 24 アフリカ史
- 25 北アメリカ史
- 26 南アメリカ史
- 27 オセアニア史、両極地方史
- 28 伝記
- 29 地理、地誌、紀行
- 30 社会科学
- 31 政治
- 32 法律
- 33 経済
- 34 財政
- 35 統計
- 36 社会
- 37 教育
- 38 風俗習慣、民俗学、民族学
- 39 国防、軍事
- 40 自然科学
- 41 数学
- 42 物理学
- 43 化学
- 44 天文学、宇宙科学
- 45 地球科学、地学
- 46 生物科学、一般生物学
- 47 植物学
- 48 動物学
- 49 医学、薬学
- 50 技術、工学
- 51 建設工学、土木工学
- 52 建築学
- 53 機械工学、原子力工学
- 54 電気工学
- 55 海洋工学、船舶工学、兵器、軍事工学
- 56 金属工学、鉱山工学
- 57 化学工業
- 58 製造工業
- 59 家政学、生活科学
- 60 産業
- 61 農業
- 62 園芸、造園
- 63 蚕糸業
- 64 畜産業、獣医学
- 65 林業、狩猟
- 66 水産業
- 67 商業
- 68 運輸、交通、観光事業
- 69 通信事業
- 70 芸術、美術
- 71 彫刻、オブジェ
- 72 絵画、書、書道
- 73 版画、印章、篆刻、印譜
- 74 写真、印刷
- 75 工芸
- 76 音楽、舞踊、バレエ
- 77 演劇、映画、大衆芸能
- 78 スポーツ、体育
- 79 諸芸、娯楽
- 80 言語
- 81 日本語
- 82 中国語、その他の東洋の諸言語
- 83 英語
- 84 ドイツ語、その他のゲルマン諸語
- 85 フランス語、プロバンス語
- 86 スペイン語、ポルトガル語
- 87 イタリア語、その他のロマンス諸語
- 88 ロシア語、その他のスラブ諸語
- 89 その他の諸言語
- 90 文学
- 91 日本文学
- 92 中国文学、その他の東洋文学
- 93 英米文学
- 94 ドイツ文学、その他のゲルマン文学
- 95 フランス文学、プロバンス文学
- 96 スペイン文学、ポルトガル文学
- 97 イタリア文学、その他のロマンス文学
- 98 ロシア・ソビエト文学、その他のスラブ文学
- 99 その他の諸言語文学
日本十進分類法 新訂10版 第2次区分表より
宗教と芸術は保留にしました。いずれも実学だという意見もあるでしょうし、虚学だという意見もあるでしょう。創作や演技・演奏などは学問ではないので、そういう分類にはなじまないという見方もあるでしょう。
一方、芸術の分野でも、学問としての美術史、音楽史や、音楽理論の研究は、虚学だという意見もあるでしょう。
また、数学は紫にしました。こちらも実学・虚学と意見が分かれるところです。技術者にとっては必須の学問なので、この意味では実学です。しかし、数学自体は現実への応用とは関係なくそれ自体で成り立つ学問です。その意味では、物質的でもなく社会的でもなく直接に生活に役立つものではありません。その観点からは、実学ではないともいえます。
スポーツ、体育も悩むところです。スポーツはなくても生きていけます。しかし、生きるためには最低限の運動ができる体と体力が必要です。この意味で体育は生活に欠かせないものです。
哲学と歴史と文学は虚学にしました。物質的な対象を扱わないし、政治・経済に直接の影響を与えないからです。
心理学は実学にしました。しかし、心理学も分野によって違うという見方もあるでしょう。
語学は実学にしました。しかし、サンスクリット語、古代ギリシア語、ラテン語などの古典語は虚学と考える人は多いかもしれません。
また、大学などの語学の先生は、文学を専門にされている方が多いので、文学と語学で分けてしまうのはおかしいという見方もあるでしょう。
社会科学でも民俗学や民族学は虚学にしました。これについても意見が分かれるかもしれません。
東京大学の学部・学科を分類してみました
東京大学の学部・学科からも分類してみます。
判断基準も表示も、上と同様、実学は赤、虚学は青、その中間的なものは紫です。
法学部
第一類(法学総合コース)
第二類(法律プロフェッション・コース)
第三類(政治コース)
医学部
医学科
健康総合科学科
工学部
社会基盤学科
都市工学科
機械情報工学科
精密工学科
電気電子工学科
計数工学科
応用化学科
化学生命工学科
建築学科
機械工学科
航空宇宙工学科
電子情報工学科
物理工学科
マテリアル工学科
化学システム工学科
システム創成学科
文学部
思想文化学科
歴史文化学科
言語文化学科
行動文化学科
※平成30年度進学者から人文学科一学科制が適用
理学部
数学科
物理学科
地球惑星物理学科
化学科
生物学科
情報科学科
天文学科
地球惑星環境学科
生物化学科
生物情報科学科
農学部
応用生命科学課程
獣医学課程
環境資源科学課程
経済学部
経済学科
金融学科
経営学科
教養学部(後期課程)
教養学科
統合自然科学科
学際科学科
教育学部
総合教育科学科
薬学部
薬科学科
薬学科
(東京大学ホームページ http://www.u-tokyo.ac.jp/gen01/c01_j.html等を参照しました)
文学部の4学科のうち、思想文化学科と歴史文化学科を虚学としました。言語文化学科にの専修課程は「英語英米文学」というように語学と文学がセットですので中間としました。行動文化学科は心理学、社会心理学、社会学の専修課程ですので、実学としました。
教養学部(後期課程)は、文系・理系を超えた学際的研究が行われており、一般的にいわれる実学・虚学が混在していますので、中間としました。ただ、この学部の後期課程の教育には前期課程のリベラルアーツだけでなく、実学志向があることは確かだと思います。
分類してみて思ったこと
東大では後期課程の学部生の8割が実学を学んでいるようです
図書の分類から見ても、大学の学部・学科から見ても、ごく一部が虚学で、他の大部分は実学だということになりました。
東京大学のホームページによると、現時点(平成29年5月1日現在)の学部の在籍者(聴講生・研究生を含む)は14062人です。
このうち、教養学部前期課程の6686人を引くと、7376人が後期課程(いわゆる専門課程)の在籍者です。
文学部の在籍者(聴講生・研究生を含む)が764人です。虚学とされる分野が文学部に集中していることから、心理学・社会学専修を除く分野の学生は、ほぼ後期課程に在籍する全ての学生の1割ほどになるだろうと思われます。(学科ごとの在籍者数がわからなかったので、正確な数は出せませんでした)
このことから、東京大学では、9割ほどの大学生が実学といわれるような学問を専攻しているということがわかります。
しかし、私立の仏教系やキリスト教系の大学や文系学部中心の大学では割合は変わるかもしれません。日本のすべての大学の学部在籍者や専攻分野を調べる気力はありませんので、推測することしかできません。だいたい学部名・学科名もさまざまですから、たいへんな労力が必要になります。
推測に過ぎませんが、日本の大学の学部生は、7割~8割以上の大学生が実学を学んでいるだろうと思われます。学問の主流は実学にあるのだと実感しました。
あらゆる学問は相互に連関しあって成り立っているのだなと思います
学問名によって実学か虚学かに区別することをやっておいて言いにくいのですが、実学と虚学の区別は、時代や社会状況や文化圏によって変わりうる相対的なものだと、あらためて感じました。また、学問は、それぞれが単独での発達や進歩はあり得ないということも思いました。
物理学の進歩は数学や工学の進歩と関わっています。医学の進歩は生物学、化学、工学、薬学などの進歩なしにはおこりません。社会科学のような社会を認識する学問も、人間を認識する分野と深くつながっています。人間が集まって社会を形成しているわけですから。
時代の変化とともに新しい分野が生まれて、学問は細分化していきます。しかし、学問はそれぞれの分野が相互につながったり刺激し合ったりして、人類の知の結晶として進歩してきたものです。
実学・虚学と分類されたとしても、そのことから、学問に優劣をつけたり、虚学を社会から排除することは賢明なことではないなと思いました。
こう考えると、図書館や博物館や大学といった施設・組織に置かれているあらゆるもの(ものも人も)は、どれも人類にとって大切な宝物と思えてきました。
※ここでの「分類」については反対意見も多々あろうかと思います。また、虚学とされた分野を専門としている方々には、お怒りになる方もいらっしゃるでしょう。ご容赦いただければと思います。