「実学」であれ「虚学」であれ、その境界を絶対的に決められるものではないと私は考えています。
時代によっても変わってくるものですし、国や地域によっても異なることがあるからです。
ここでは、学校で学ぶのであれ、独学であれ、学ぶことと、企業や役所などで働くことという視点で、実学と虚学について考えてみたいと思います。
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学校での学びと実学・虚学
学校での学びを考えてみますと、学校のカリキュラムには実学と虚学が混じっていると一般に考えられています。小学校、中学校のカリキュラムではどうでしょうか。
算数は実学、英語は実学、保健・体育、技術・家庭は実学というとそれほど異論はないかと思います。
また、理科と数学も実学と考える人は多いのではないでしょうか。
では、国語はどうでしょう。やはり、読み書きは生活の役に立つから実学だという人が多いようには思います。しかし、国語の中には小説や詩などの文学の教材が含まれています。文学は実学か虚学かと問われれば、虚学だと答える人が多いのではないでしょうか。国語は、完全な実学とはいえないややグレーな部分が含まれています。
社会はどうでしょう。地理と公民は実学と答えやすいですが、歴史は実学なのでしょうか。
音楽、美術はどうでしょう。これは実学でしょうか。これらは、芸術の実技教科なので学問とは違いますが、どちらかというと生活の役に立たないので、虚学と見る人が多いかもしれません。
しかし、小中学校は義務教育だし、ここで習うことは人が生きていく上で必要な知識ばかりだと考えると、小中学校で学ぶことは、実学と見ていいのではとも思います。
では、高校はどうでしょう。工業高校や商業高校、農業高校、水産高校などの職業高校での専門教科は実学だと思う人が多数ではないでしょうか。
普通科となると、教科・科目ごとに意見が異なることになりそうです。特に高校で学ぶことはより難しい内容になりますから、役に立つ実学という観点からは、別に学ばなくてもいい教科・科目があるのではないかという見方も出そうです。
どちらかというと、進学する人にとっては入試科目が実学ということになるでしょうか。また、たとえ入試科目に含まれていても、将来の職業からすると必要ない教科・科目は虚学という見方もできます。国立大学入試に課される、文系の数学や理科、理系の社会は、そんな風に見られるかもしれません。
学校で習った教科・科目のうち、人によって役に立つ・立たないということがあります。世の中には、学校で習うような知識を知らなくてもできる仕事はたくさんあります。就職してから、あの教科は全く必要なかったと感じている人は多いのではないかと思います。
この場合は、ある人にとってはある科目は役に立たない虚学となり、ある人にとっては役に立つ実学となるということが起こります。
仕事からみた実学・虚学
いうまでもなく、職業にはたくさんの業種・職種があります。製造業、流通業、運輸業、サービス業などに、事務職、営業職、技術職など、さらに細分化して行くこともできます。
学校で学んだことを生かしたいと思って、就職活動をする人も多いでしょう。工学部で学んだ人は研究開発の職種に就きたいと思うでしょうし、法学部で学んだ人は法曹になりたい、あるいは企業でも法務部で働きたいと思う人は多いでしょう。
しかし、職種別の採用をしない企業に総合職で就職した場合、どの部署に配属されるかはわかりません。数年後にでも希望の部署に配属されたらいいのですが、希望者が多い部署ならば、なかなかそこに配属されないかもしれません。
会計学を学んだので、経理部に行きたいと思っていても、営業部に配属されているというような、自分の希望どおりにいかないケースが多いと思います。特に大企業ほどそのような傾向が強いでしょう。
そのような状態で定年まできてしまった場合は、大学で学んだ専門学科は仕事とは無縁で終わってしまったということになります。
むしろ、就職してから、会社の研修で学んだり、仕事の現場で上司や先輩に教わったり、自発的にセミナーに参加したり、ビジネス書を読んだり、仕事に関係する資格を取ったりという学びが実学であって、大学での専攻は実質的に虚学と変わりなかったということも起こります。
上記は極端な言い方ではあります。しかし、AさんにはAさんの人生があり主観があります。Bさんも同様です。それぞれにとって、何が実学で虚学であったかはそれぞれの主観が決めるものともいえます。
心から学びたいものを学ぶことが実学かもしれません
客観的に実学と虚学を分けることも可能でしょう。しかし、そのこと自体は、たいした意義を持たないようにも思います。
実学とされる分野を学んでも、それが生活のためにしている仕事とは無関係であったなら、役に立つ学問ではなかったということになりますので。
もちろん、職業に直接生かせるものだけが実学とは、あまりにも実学の範囲が狭くなりすぎるという批判もあるでしょう。
「役に立つ学問」というのが一般的な実学の意味です。この意味から考えると、個人の学校生活と職業生活を含めた人生の中で、もっとも生活に役に立つのは職業生活の中での学びだと思うのです。
この学びは、学問の分野による実学・虚学の区別と必ずしも連動しません。ある人が、生活の上で必要であれば、文学や哲学、その他一般に虚学とみなされる学問分野であったとしてもその人にとっては実学になりえます。
学校の意義を否定しようとは私は思いません。学校を出て働くようになってからの学びは、学生時代に培った学びの方法や知識が大きな土台になるからです。
そう考えると、高校であれ大学や専門学校であれ、自分が本当に学ぶたいことを学ぶことが、その人の人生にとって役に立つ学問といえるのではないかと思います。
実学を、研究対象とか研究方法という視点で見るだけではなく、学ぶ動機や必要性という視点から見てみることも意義のあることだと思いますが、どう思われますか。
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