実学とは何かというと、多くの人は生活に役に立つ学問のことだと考えるのではないでしょうか。たとえば、医学や農学、工学、会計学、経営学のような学問ということになるでしょう。この意味に解すれば、実学は、まさしく人々の生活に役立つ学問です。
この実学の反対語として、「虚学」という語が使われることがあります。「実」に対する反対語として「虚」の漢字を当てて、人々の生活に役に立たない学問という意味を与えている語なのでしょう。たとえば、文献を主に研究するような、文科系の学問分野がそうであるといわれています。
私は、実学は大切な学問だと思っています。しかし、研究分野だけで実学であるとかそうでないとかとはかんたんに決めつけられないのではないかと疑問をいだいています。
そこで、今の時代における実学とは何か。あるいは、それに対する虚学とは何か。このことについて、考えてみたいと思います。
まず、これらについて、だれもが入りやすい、国語辞典でどういう説明がされているのか見てみます。
「実学」の辞書での説明は?
『広辞苑』(第五版)では次のような語義説明がされています。
じつ‐がく【実学】
[朱子、中庸章句「其味無窮、皆実学也」]
1 空理・空論でない、実践の学。実理の学。
2 実際に役立つ学問。応用を旨むねとする科学。法律学・医学・経済学・工学の類。
『広辞苑』(第五版)
「其味無窮、皆実学也」は、とりあえずここでは無視するとして、この説明では、わかったような気にはなるのですが、それでも、どうもすっきりしません。
1の「空理・空論でない実践の学。」ということですが、空理・空論というのは、そもそも「学問」とはいえません。学問として成立している理論をもった上での「実践の学」というように解釈すればいいのでしょうか。
2の「実際に役に立つ」学問が、必ずしも「応用を旨とする科学」とは限らないような気もします。
素直に実践的で実利的学問と受け取ればよいのかもしれませんが、この語義解説だけでは、曖昧な印象はぬぐえません。
「虚学」の辞書での説明は?
それでは、虚学とはなんでしょう。私がもっている国語辞典には虚学という項目がありません。新しい国語辞典には項目があるのでしょうか。ネット上の辞書でも、実学の説明の中に出てくることはあっても、項目としては見つけられませんでした。
とはいえ、虚学は実学の反対の意味で用いられることは明らかで、役に立たない学問ということで使われているのは間違いないでしょう。
「weblio」の英和・和英辞書(http://ejje.weblio.jp/)では、虚学の英訳として、
the soft sciences (social science、humanities、etc.)
と出てきます。社会科学や人文科学が該当するようです。この英訳では、「役に立たない」という意味合いではなく、学問分野を指しています。
社会科学のなかでも法律学や経済学は、先の『広辞苑』では実学に含まれていました。
それならば、虚学とはイコールsocial science (社会科学)を含む soft scienceであるともいいきれません。
辞書の語義説明から見ても、虚学という語は、その意味がすんなりと理解できるような語ではないように思えます。
実学も虚学も意味は曖昧なのでは?
実学や虚学ということばが日本語のなかで使われるとき、必ずしも意味が明確でなく、漠然としたイメージで使われているような印象を受けます。少なくとも、それらの語の意味が自明であるとは思えないのです。
いろいろと疑問が生じてきました。これから、私に与えられた一つのテーマとして、実学や虚学ということばについて、私なりの考え方を示していきたいと思います。
追記:実学・虚学については、次を参照してください。
https://ebikuma.com/category/on-learning/jitsugaku-and-kyogaku