人文系学問は不要でしょうか 三谷尚澄著『哲学しててもいいですか?』を読みました

ディオゲネス

ディオゲネス  pixabay.com

『哲学しててもいいですか? 文系学部不要論へのささやかな反論』(三谷尚澄 著 ナカニシヤ出版 2017年)という本を読みました。

私にとっては、たいへんおもしろい本でした。トータル5時間程度、空き時間を使って3日で読み終えたほど読みやすい本でもありました。

本書は、大学教育での人文学の存在意義について明らかにしようという一つの試論と言えるものです。

本書のタイトルからわかるように、著者はご自身の専門である哲学を中心に論じています。社会にとって哲学は存在意義があるのかという、常識的にはたいへん「困難?」ともいえるテーマに向かっています。

哲学は、一般的には最も役に立たない学問として認知されている分野ではないでしょうか。

浮世離れした、非現実的な、こむずかしい理屈を並べている、理解しがたい、お金にならない、変人による変人のための、この世からなくなってもだれも困らない等々と、多くの人が思っているのが哲学です。

「そんなどうでもよいような学問が、血税を使って国立大学で若者に教えられているとはけしからん。」
「私立大学ならともかく、国立大学ではそんなものを教えるのはやめるべきだ。」
「国立大学から、哲学なんか追放しろ」
「そうだ」、「そうだ」

kumazouの想像による

そんな声が多数派になってきても不思議ではないようにも思います。

しかし、著者はそれでもなお、大学で哲学を学ぶ意義がある、哲学は社会にとって必要であることを示そうとしています。

その論は、今まで一般に言われているような哲学の意義とは違う視点で進められています。それが本書の特徴です。

一般的に言われる哲学の意義については、次のように言われることがあろうかと思います。

哲学は、ものごとをすべてを疑い、偏見や先入観を捨て、前提のないところから、根本的なところから考えようとする。それによって、今までになかった新しいものの見方・考え方を提示する。

哲学は、科学では答えられない倫理的問題や価値の問題も問題とする。たとえば、ある科学的研究が社会的に見て適切かどうかを議論の俎上に載せることができる。

哲学は、既成の価値観を疑い、それを吟味した上で、新しい価値観を提示してきた。それが社会変革につながることもあった。

哲学は、新しい学問の土台となってきた。自然科学や社会科学は哲学から分離独立して、新しい研究対象や研究方法を確立し進歩してきた。哲学は知的探究の根源であり、これからも哲学は新しい学問を生み出し続けるであろう。

kumazouの想像による

ほかにもいろいろあるでしょう。しかし、著者の切り込み方は、上記のような上から目線とも感じ取れる言い方とは全く違います。

大学の哲学関係の授業で起こったことや、学生や同僚と接しながら感じたことなど、日々の著者の経験から、今の大学の現状が語られます。そして、その上で、哲学が役に立つとすればどういうことによって役に立つのかを、少しずつ書き進めていきます。

ズバリこれだという答えはなかなか出てきません。しかし、少しずつ著者の答えが示されていきます。使い古されたことばで語るのではなく、今ここにあるさまざまな問題の提示とそれに対する答えが、問答のように積み重ねられていきます。

本書は著者自身の思索の書であり、いわゆる哲学書と言った方が適切です。それは研究紀要に載せるような研究論文でもなく、あるいは文学的なエッセーとも違います。プラトンの対話篇やデカルトの『方法序説』を読んでいるような、そんな感じです。(全く形式も内容も違いますが)。

著者の本書における主張は、ある人にとっては明確にわかるでしょうし、明確ではないと感じる人もあるでしょう。それは、本書の最終部分だけに結論がズバリ書いてあるわけではないからです。

本書の言いたいことは、全体を通じて書いてあります。全体を読まないと、最後だけ読んでも本当に著者が言いたいことはわからないでしょう。そういう点において、多くの哲学書と同じです。

ただし、はじめから終わりまで何が書いてあるのさっぱりわからないタイプの哲学書とは違い、専門用語や難解な文もありません。横文字も漢文も本文中にはありません。普通の大人、大学生だけでなく、高校生にも普通に読める文章です。

今の大学のおかれている現状や、人文系の学問の大学内でのあり方に関心のある方には、おもしろく読めるでしょう。さらに、社会における哲学や人文学をどうとらえるかという問題を考えようとする方にとっても、考えるヒントが与えられる本です。

ここでは著者の主張について、私が勝手な解釈を書くことはひかえておきます。ただし、本書によって触発されて考えた私の意見などは、あらためて書きたいと思います。

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