「~ができるようになるためには~をおさえておくべきです」
この表現はよく使われます。ネット上には、さまざまな用例が見られます。その際、「おさえる」にはどの漢字を使うのがよいかということについての私見です。
たとえば、
「試験に合格するために、おさえておくべき5つのこと」
「~で上手な買い物をするためには、この点をおさえておけば大丈夫」
というようなタイトルがよくあります。
このとき、私が気になるのは、「抑えて」という「抑」という漢字が使われている場合です。
これが、ネット上ではかなりよく使われています。しかし、私は、「押さえて」という「押」という漢字を使うべきという感覚があるのです。
「抑える」は、私の語感では、たとえば、ふくれあがる経費を低減させるような「抑制」が一番のイメージです。野球で、投手が0点におさえるとか、ノーヒットでおさえるような「抑止」のイメージもあります。
それに対して、「押さえる」は、相手の急所のようなところ、たとえば首根っこをおさえるというようなイメージです。
たとえば、一匹の毒ヘビが目の前に現れたします。そのとき、身を守るために手元にあった棒で、その頭の部分をおさえつけます。それは、地面に棒で押さえつけるというものです。押して、そのまま動けないようにするという感じでしょうか。
「要点をおさえる」というような、「おさえる」の場合は、ヘビを押さえつけるという場合と同様に、漢字としては「押」を使うのが、なじみやすく違和感がありません。
「要点を抑える」といわれると、「要点を抑止する」「要点を抑制する」というような意味合いに感じてしまいます。「抑」の字にはそのようなイメージがついているのです。あくまで、私の個人的な感じ方なのですが。
『広辞苑』第五版では、
広く一般に、また、物理的な力を加える意では「押」、抑止・抑制の意では「抑」、上からの圧迫の意の場合には「圧」を使う。
この説明にはしっくりきます。
しかし、辞書によって見解が異なるかもしれません。
ただ、辞書によっては「抑」「押」の区別を特に示さないこともあります。
『新明解国語辞典』(第五版)では、
おさ・える【押(さ)える】(他下一)
について、6つの語義を示した上で、最後に、
[表記]「抑える」とも書く。
となっています。(最新版の第七版はもっていないため未検証です。記述が変わっている可能性もあります。)
これは、「抑える」でも「押さえる」でも、どちらの表記でもよいということでしょう。
こういわれると、表記上どちらでも間違いではないということで、納得するしかありません。
最後に、グーグルの検索についてみておきます。
以前、このことが気になっていた私は、「抑えておく」で検索したことがありました。そのとき、たくさんのページがヒットして、これだけヒットするなら、やはり「抑える」も認めざるを得ないなと思いました。
しかし、先ほど検索してみたら意外な結果でした。
「これだけは抑えておきたい」と検索したら、
もしかして: これだけは押さえておきたい
という表示が出てきました。
最近は、グーグルも、「要点をおさえる」場合の漢字は、「抑」ではなく「押」をより正しいと判断するようになっているようです。
しかし、上の広辞苑の説明にもあるように、「おさえる」には「圧さえる」もあります。私があげたヘビの例は「圧さえる」の方が適切だという考え方もあります。
また、「反乱をおさえる」ときは、一般に「抑える」が使われますが、「制圧」「鎮圧」という熟語があることから「反乱を圧さえる」でもよいようにも思います。しかし、この表記はあまり用いられないようですね。この点は、なかなかすっきりしないところではあります。
そのそも、大和言葉のある一つの動詞をとったとき、その動詞の意味に対応する漢語がいろいろあるために生じている問題です。
動詞の「わらう」でも、「なく」でも、漢字で書くときは、すべて「笑う」「泣く」では通用しません。ここのところがつらいところです。
英語の動詞 haveやtakeやgetなどは、日本語に訳すときに苦労します。漢字は日本語の要素として大きな位置を占めていますが、もとは漢語という外国語の文字ですから、仕方ないのかもしれませんね。
コメント
情報を付箋、画鋲でピン留めするイメージで場合によっては圧の字もアリかと思います
まだない 様、コメントありがとうございました。
ご指摘のように、ある情報を「おさえておく」というときに、「圧さえておく」と書くことがあってもよいのではと思います。
「圧」の字は、私の日本語IME(ATOKとMicrosoft IME)では、単語登録しないかぎりは「圧さえる」と変換できませんでした。
「圧さえる」は、一般的にはあまり使われていないかもしれません。しかし、文章の中で、自らの考えを伝えるためにあえて使用してもよいのではないかと、私は思っています。