だれでも、この歌のおかげで生きてこられたという曲があるのではないかと思います。
歌というものは、外国語よりも母国語の歌の方が直接に心に響きます。私の場合は、大好きなイギリスのプログレッシブ・ロックよりも日本のフォークやロックがそういう歌でした。
日本のフォークやロックの中でも、岡林信康さんの歌にそういう歌がありました。
岡林さんの歌の中でも、特に、「今日をこえて」が、若い頃の私の心をとらえていました。
くよくよするのは もうやめさ
今日はきのうをこえている …
この曲は、ユーチューブにもたくさんアップされています。元気をなくしてしまっている方は一度聴いてみて下さい。
次の演奏は、伝説のロックバンド「はっぴいえんど」との共演です。1970年10月9日、日比谷野外音楽堂でのコンサートのライブ録音です。
https://www.youtube.com/embed/cop1nqy7QaU
自分の道を行こうという青年の心境が歌われています。
20歳前後の頃、これからの生き方に迷っていた私にとっては、自分を励ましてくれるように感じました。
これともう一つ、「自由への長い旅」も、同じように元気づけてくれました。
いつの間にか 私が 私でないような
枯れ葉が風に舞うように 小舟が漂うように
私がもう一度 私になるために
育ててくれた世界に 別れを告げて旅立つ
信じたいために 疑い続ける …
https://www.youtube.com/embed/k3QydKu9VW8
この歌は、若い頃、この歌のように生きたいと思いましたが、まあできないだろうなとも半分あきらめてもしました。しかし、この歌の心はいだきつづけたいと思ったことは確かでした。
その後、社会人となりました。そして、働いていると、自分の自由はあきらめて心を曲げるしかないと思うようなことが多々ありました。
そういうことが積み重なってくると、次第に自分自身がだれだったのかわからなくなりました。
中年になってからも、「私がもう一度 私になるために」というフレーズを聴くと、見失った自分を取り戻せるような気になったものです。そして、今の歳になっても、このフレーズが強く響いてくることに変わりありません。
この歌を書いた当時の岡林さんの心境は、若かった日の私の心よりも、もっと悲壮な思いがあっただろうと思います。
同志社大学神学部の学生だった岡林さんは、大学をやめてシンガー・ソングライターとして生きていかれました。
彼の心の内には、レールの敷かれた道を歩むのではなく、自分自身の心に従って生きようという強い決心があったのでしょう。その決断は半端な気持ちではできないものだったに違いありません。その決意がこの歌には込められていたのだと思います。
若い頃の私にも、この歌から岡林さんの強い決意が伝わってきました。しかし、凡人の私には同じことはできるはずもありません。凡人には凡人らしい生き方しかできませんでした。そういう意味で、岡林さんは「神様」だったのです。
これらの曲は、1971年にシングル盤のA面・B面として発売されていたのですね。(A面が「自由への長い旅」、B面が「今日をこえて」)。ネットで調べて、今にして、はじめて知りました。
いずれも名曲だと思います。はっぴいえんどの演奏もいいですね。
若い頃に聴いていて、その後は20年近く、これらの曲を聴くことなく忙しい日々をすごしていました。
40歳を過ぎてから、10代の頃に聴いていた音楽を急に聴きたくなり、「大人買い」で中古レコードやCDを買うようになりました。
岡林さんのレコードやCDもその頃にせっせと買っていました。その頃は、初期のアルバムのレコードもCDもいずれも廃盤で、中古レコードやCDを探して買っていました。
そのころヤフオクに入札するようにもなりました。中古レコード店を自分の足でまわっていても、いつまで経っても入手できそうにありませんでした。ところがヤフオクには、まだ入手できていないアルバムなどがいろいろと出品されていたのでした。
今では、初期のアルバムも新品CDで買えるのですが、当時は、中古盤しか入手方法はありませんでした。ヤフオクでは、結構な高値で取引されていたのを思い出します。たとえば、『大いなる遺産』のCDは、1万円超えで取引されていました。
今は新品のCDが通常価格で入手できますので、若い人々にも聴いてほしいと思っています。
特に、ライブ盤がお薦めです。サービス精神旺盛な岡林さんのトークは面白いですし、スタジオ録音のお行儀のよい演奏よりも、生き生きと岡林さんのお人柄が伝わってきます。
ただ、残念なことに、私がもっともお薦めする二つのライブ盤は、今は絶版になっていました。
『岡林信康コンサート』は、何となく疲れた感じの岡林さんというところがありますが、それも時代背景を感じ取ることができます。また、若い日の高田渡さんの「生活の柄」「おなじみの短い手紙」、加川良さんの「教訓 1」や、これまたそのメンバーが音楽界の重鎮である はっぴいえんど の「かくれんぼ」「はいからはくち」も収録されています。もちろん、岡林さんのバックバンドも はっぴいえんど です。
『狂い咲き』は、バックバンドが柳田ヒログループ(柳田ヒロ、高中正義)が担当しています。岡林さんは、それまでの発表曲すべてを作った順番に歌うというライブです。はじめは、ギター1本の弾き語りで、初期の「友よ」や「山谷ブルース」や「チューリップのアップリケ」などを歌い、途中からエレキギターに持ち替えて、柳田ヒログループとの共演になります。はっぴいえんどとは、また趣の違う演奏です。こちらもまた、私は好きな演奏です。
次の『岡林信康ライブ 中津川フォークジャンボリー』は、まだ通常価格での入手ができそうです。上記の2つよりは収録曲が少ないですが、1970年と1971年の中津川フォークジャンボリーでの演奏が収められています。はっぴいえんどと柳田ヒログループとの演奏が入っています。これも価値ある1枚です。
日本のフォークとロックの歴史を語る上で欠くことのできない、岡林信康さんの音楽です。私は、過去の歴史的遺産というよりは、今も人々の心に響く音楽だと信じています。
もちろん、岡林さんは、今も現役です。フォーク・ロックから演歌、「エンヤトット」という独自のジャンルへ進んでこられて、今もそれらのレパートリーを歌われています。
高田渡さんや加川良さんは、惜しくも亡くなられてしまいましたが、今もなお岡林さんの歌が直接に聴けることは仕合わせなことだと思います。早くコロナが終息して、普通にコンサートにいけるようになってほしいものです。